地球に降り注いでいる宇宙放射線の源は、銀河系や他の銀河から飛来する銀河宇宙線(galactic cosmic rays:GCR)と太陽からの粒子(ほとんどが陽子)の2つに大きく分類されます。このうち、航空機で飛行している時に浴びる宇宙放射線は、エネルギーの高いGCR起源のものになります。太陽粒子は、GCRと比べてエネルギーが低いため、航空機の飛行する高度(9〜12km)までほとんど達することがないからです。
図1. 地球をとりまく宇宙放射線環境のイラスト;エネルギーの低い太陽粒子(稀に生じる太陽フレア粒子を除く)は地球の磁場や大気に遮られ、航空機高度の放射線環境にはほとんど影響を及ぼさない.
GCRは、98%が原子核で2%が電子、原子核のうち87%が陽子で12%がヘリウム、残りの1%が更に重い粒子から構成されます。これらのうち、エネルギーの比較的低い成分は地球の磁場によりはじかれますが、ある一定値以上のエネルギー(カットオフエネルギー)を持つ粒子は磁場を通過して地球の大気圏まで到達します。それらの粒子も、大気(大気厚みとして200〜300g cm-2)の原子・分子との相互作用によりその多くがエネルギーを失いますが、衝突による破砕反応(カスケード反応)に伴い様々な放射線(中性子、陽子、電子、光子、ミュー粒子、パイ粒子等)が二次的に発生し、これらの放射線が航空機高度での被ばくに寄与します(図2)。カスケード反応によって生じる、地表に向けて雨のように降り注ぐ放射線群は「宇宙線シャワー」などと呼ばれます。
図2. 宇宙線の大気内カスケード反応のイメージ.
航空機高度での被ばくに寄与する放射線のうち、最も大きな割合を占めるのは中性子で、実効線量の半分以上が中性子によると評価されています。電離成分については、陽子が1〜2割り、残りの3割程度を電子、光子、ミューオン、パイ粒子が占めると考えられています。(図3)。ちなみに、地上における宇宙放射線の構成では、ミュー粒子と電子が支配的な成分となります。
図3. 宇宙放射線の実効線量率の典型的な高度分布;陽子の放射線荷重係数は2としている.
(参考文献)
1-1) National Council of Radiation Protection and Measurements (NCRP): "Radiation exposure and high-altitude flight", NCRP Commentary No.12: 1-23, NCRP: Bethesda, MD,1995.