用語集


ICRP

正式名称を「国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection)」という。1928年(昭和3年)に設立された国際X線・ラジウム防護委員会を継承して1950年に設立された国際的な放射線防護の専門家の委員会。1956年以降は世界保健機構(WHO)の諮問機関として放射線防護に関する国際的な基準を勧告してきた。ICRPの勧告は国際的に権威あるものとされ、我が国をはじめ、各国の放射線防護基準の基本として採用されている。現在は、1990年に勧告(ICRP Publication 60)された放射線防護の基本体系が各国で取り入れられている。2007年には新しい勧告が採択された。

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ICRU

正式名称を「国際放射線単位測定委員会(International Commission on Radiation Units and Measurements)」という。1925年に組織された国際的な放射線測定の専門家の委員会。 ICRUでは、主に

1) 放射線及び放射能の単位
2) 放射線医学及び放射線生物学における線量の単位とその測定及び適用
3) 測定及び測定に必要な物理データについての整備
を行っている。

これらの成果はICRU Reportとしてまとめられ、刊行されている。ICRUでは、ICRPと密接な関係を保ちつつ、放射線防護の分野の単位についても同様の検討を行っている。

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UNSCEAR(国連科学委員会)

国際連合 (United Nations)に属する委員会の1つで、正式名称を「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)」という。1955年に設置され、国連加盟国から各国の自然・人工放射線のレベルや放射線の健康影響の推定根拠となる科学的知見等の情報を収集・集約して、定期的に国連総会に報告を行うとともに、詳細な報告書を刊行している。現在の加盟国は、日本、米国、ロシア、中国、英国等21カ国。

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宇宙線(宇宙放射線)

宇宙空間を非常に速い速度で飛んでいる放射線。その起源によって捕捉放射線、銀河宇宙線、太陽粒子放射線に分類される。捕捉放射線は、主として電子と陽子が地球磁場により地球周辺軌道に捕まったもので、地上の線量には寄与しない。銀河宇宙線と太陽粒子放射線の主成分は、陽子と若干のヘリウム及び重粒子のイオンから成る。太陽粒子放射線は、11年周期の太陽活動の活発な時期に合わせて多くなる。これらのうちエネルギーの高い宇宙線(>500 MeV)が地球大気に突入すると、大気の原子核と反応(カスケード反応)し、多量(平均1億個ほど)の二次粒子(中性子、陽子、ミュー粒子、パイ粒子、K粒子等)を生成する。この雨のように降る放射線を総称して宇宙線シャワーと呼び、その強度は高度と地磁気緯度の関数となる。

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吸収線量

放射線が照射された物質の単位質量当たりに吸収されたエネルギーの量。物質1kgあたり1ジュールのエネルギーが吸収されたとき、1グレイ(Gy)の吸収線量であるという。旧単位系のラド(rad)とは1rad = 0.01Gyの関係にある。

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銀河宇宙線

銀河宇宙線は、太陽系外から飛来する粒子で、超新星爆発等をその起源とする、銀河系内磁場により加速される荷電粒子である。自由空間ではほぼ等方的に運動している。エネルギー範囲は広く、極めて高いエネルギーまで及ぶものもあるが、地球近傍では、核子あたり数100MeVから1GeVのエネルギーに粒子数のピークをもつ。銀河宇宙線全体の約98%は陽子とそれより重い粒子(重粒子)で、約2%が電子と陽電子である。銀河宇宙線の重粒子はHZE粒子(high-Z and high energy particles)とも呼ばれ、陽子及び重粒子のうち、約87%が陽子、約12%がHeで、残り1%程度がHZE粒子である。HZE粒子の宇宙線の中に占める割合は大きくないが、生物学的影響は大きいと予想される。地球近傍における銀河宇宙線の強度は、太陽活動の約11年間の周期的な変動に伴い変化し、太陽活動の極小期に最大に、太陽活動が極大期に最小になる。

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GLE (Ground Level Enhancement/Event)

太陽フレアの影響が大気圏内にまで及び、地上における二次宇宙線(多くは中性子)の強度が短時間で急激に上昇する現象。平均して年1回程度の頻度で発生している。ただし、1回の商用フライトで1mSvを超えるようなケースは過去50年間で1〜2回である。

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航路線量

離陸から着陸までの、航空機に搭乗している間に宇宙放射線によって受ける線量のこと。実効線量で示すことが多いが、周辺線量当量を用いることもある。

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航路線量計算コード

航路線量を計算するためのプログラム。主なものとして、ヨーロッパで使われているEPCARD、アメリカで使われているCARI、カナダで使われているPCAIRE、日本で使われているJISCARDなどがある。詳細は関連情報のページをご覧ください。

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自然放射線

自然環境を起源とする放射線。太陽及び銀河系から地球に到達する宇宙線に加え、大地や建材等に存在する地殻起源の放射性物質からの放射線や、宇宙線により生成された放射性物質からの放射線が含まれる。地球誕生以来存在し人体にも含まれているカリウム40やウラン・トリウム崩壊系列核種などの元素は自然放射性核種と呼ばれる。なお、この用語は、原子力利用や放射線発生装置の利用によって発生する「人工放射線」と対比する形で用いられることが多い。

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周辺線量当量

放射線管理に用いる線量の一つで、外部被ばくにかかわる測定量として導入された量。放射線防護の目的で定義されている実効線量や等価線量(いわゆる防護量)は直接測定できないため、作業現場でのモニタリング等に用いるべき量(実用量)として、ICRUによって定められた。現在の日本の法令では、1cm周辺線量当量及び0.07mm周辺線量当量を用いている。

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実効線量

放射線防護に用いる量の一つで、放射線の確率的影響(ガン、遺伝的影響など)に関連した線量である。 等価線量の値が同じであっても照射された臓器・組織によって確率的影響の生じる確率(デトリメント : 損害)は異なる。このため、全身が被ばくした時のデトリメントの評価を行えるようにしたのがこの実効線量である。実効線量E(単位はシーベルト : Sv)は、各臓器・組織の等価線量 HT(単位は同じくシーベルト : Sv)におのおのの組織荷重係数wTを乗じ、それらの総和として求められ、E=ΣwT・HTの式で表される。これにより、放射線による損害(デトリメント)の大小を示すことができ、外部被ばくと内部被ばくを合算して評価できるようになった。

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人工放射線

人間の行為によって発生した放射線。医療における診断や治療で使われる放射線、核実験や原子力発電などで生じた放射性物質からの放射線、工業や農業の分野で照射に利用されている放射線などが含まれる。ちなみに、原子力発電にともなって生じる人工放射線のレベルは,発電所周辺では年間0.05ミリシーベルト以下になるよう基準を設けており、実績では0.001ミリシーベルト以下となっている。

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線質係数

ICRPが1977年基本勧告で放射線防護の目的のために定めた係数で、放射線の生物効果の違いを表す指標。放射線が生物に与える効果は、その放射線の種類によって異なっているため、放射線防護の目的に沿ってICRPとICRUが放射線の生物効果の重み付けのために定めた補正係数。ICRPとICRUは、線質の異なる放射線の生物効果を評価するための共通の尺度として、線量当量(H)という概念を導入したが、このHは、実測が可能な吸収線量(D)に、線質係数(Q)を掛けた値として与えられる。

線質係数(Q)は、動物実験データやヒト疫学データに基づいて、便宜的に水中における衝突阻止能(単位 : keV/μm)の関数として定めている。さらに、衝突阻止能の値は線エネルギー付与(LET)の値に近似できることから、放射線防護の目的では放射線の線エネルギー付与(LET)の関数として線質係数(Q)を定めている。ICRPは1990年勧告で線質係数の定義(関数)を修正し、放射線荷重係数という概念を導入した。

なお、放射線生物学の分野では放射線の生物効果を表す指標として、従来より生物学的効果比(RBE)という概念が用いられてきたが、RBEは実験的に求められる値で、放射線の線質以外にも生物系の種々の要因(種類やエンドポイント)で異なった値を示す。

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線量当量

放射線防護の目的のために、放射線が人体に及ぼす影響を放射線の種類やエネルギーによらず同じ尺度で扱えるよう考え出された量。線量当量(H)の定義は、吸収線量Dと放射線の種類とエネルギーによって決まる補正係数(線質係数)Qとの積、H=D・Qである。線質係数は無次元であるため、SI単位はジュール/キログラム(J/kg)となるが、吸収線量との混同をさけるため、特別な名称であるシーベルト(Sv)が用いられている。

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組織荷重係数

実効線量を計算するときに各組織・臓器の等価線量に掛ける係数。組織荷重係数(wT)は、放射線被ばくによる各組織・臓器の確率的影響の損害(デトリメント)の総合的な評価に基づき、身体の全損害に対するその組織・臓器の損害割合として算定された値である。
なお、ICRPは、被ばくによる損害を決めるに当たり、以下の4つの因子を考慮に入れている。

(1) 致死がんの発生確率
(2) 非致死がんの発生確率
(3) 重篤な遺伝的影響の発生確率
(4) 余命損失の相対的な大きさ

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太陽活動

宇宙線被ばくの視点で見た太陽活動とは、太陽から放出されるイオンや電子の流れ(太陽風)の強さを意味する。太陽活動すなわち太陽風が強い時は、太陽系外から来る銀河宇宙線(GCR)は遮られ、地球に到達しにくくなる。逆に、太陽風が弱い時は、GCRが地球に到達するため、被ばく線量が高くなる。太陽活動(磁場)の強さは一般に地球近傍における太陽系磁場の強さで表現される。その指標には、計算コードごとに異なるパラメータが用いられており、heliocentric potential、modulation potential、deceleration potentialの3つが世界的に知られている。なお、太陽磁場が強くなると太陽表面の黒点(磁場の歪み)が増えることから、便宜的に太陽活動の強さを黒点数で表すこともある。

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太陽活動極小期

太陽活動周期の中で、黒点の数の12ヶ月平均が最少になった月または時期。太陽の活動が減少する期間である。この時期は太陽磁場が弱まるため、太陽系(地球を含む)の中に入り込む銀河宇宙線が増加する傾向にある。

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太陽活動極大期

太陽活動周期の中で、黒点の数の12ヶ月平均が最大に達した月または時期。太陽の活動が活発になる期間である。この時期は太陽磁場が強まるため、太陽系(地球を含む)の中に入り込む銀河宇宙線が減少する傾向にある。

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太陽フレア

太陽表面の黒点近傍で突然発生する巨大な爆発。黒点上空のコロナに蓄えられた磁場のエネルギーが短時間のうちに開放されて起こると考えられており、開放されたエネルギーの多くがプラズマ粒子(イオンや電子)の加速に費やされる。高エネルギーの太陽粒子が大量に発生する場合は、特に太陽粒子現象(SPE)と呼ばれる。巨大な太陽フレアの発生時には、エネルギーが10MeV以上の陽子フラックスが静止軌道上で103〜104個にもなることがある。陽子フラックスの上昇は、通常数時間内にピークを示した後低下し、数日間かけて沈静化する。

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地球磁場

地球が持つ固有の磁場。「地球は大きな磁石である」ということは, 17世紀初め、イギリスのギルバート(Gilbert)によって指摘されている。しかし、「なぜ地球には磁場が存在するのか」という疑問への明瞭な回答は未だ得られていない。地球そのものが永久磁石になっているという説明は容易だが,地球磁場は一定不変ではなく変動しているし,地球内部は非常に高温なので磁石としての性質を保つことはできない。現在では,太陽磁場を説明するため、1919年にラーマー(Larmor)によって提唱されたダイナモ(発電機)作用が地球の磁場の存在理由とされている。地球は大きく地殻・マントル・核に分けられるが、地球の核の主成分は鉄であり、非常に電気伝導度が高い。核は液体の外核と固体の内核とに分けられ、磁場中を電気伝導性のある物質が横切ると起電力が生じる。起電力が生じると電流が流れる.電流が流れるとそれに伴って磁場が生成される。生成された磁場が最初の磁場と同じであれば,磁場が維持されることになる。ただし,実際に起きていることはもっと複雑である。

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地磁気カットオフリジディティ(Rc)

地球磁場が宇宙線をはじく力を意味し、一次宇宙線の陽子が大気中でカスケード反応を起こして地表に影響を及ぼすのに必要な最小エネルギーに相当する。単に「カットオフリジディティ」と呼ばれることも多い。地球は極めて大きな磁石と考えることができ,その磁場構造から、Rc値は極地方ほど小さく(宇宙線強度が強く)赤道付近ほど大きく(宇宙線強度が弱く)なる。単位には一般にGV(ギガボルト)が使われる。なお、現在のRcのグローバル分布画像はGoogle Earth上で見ることができます。

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Deceleration potential (デセレーションポテンシャル)

太陽活動の強さを表す指標の1つ。銀河宇宙線の減速(deceleration)を意味するパラメータで、米国の中性子モニタ(Climax neutron monitor)による観測データから推定される。BadhwarとO'Neill (1996)によって提唱された。SIEVERTコード等で用いられている。Heliocentric Potentialとは数100MVの違いがある。

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等価線量

組織全体の平均吸収線量と放射線荷重係数の積で与えられる量。現在(1990年勧告)の放射線荷重係数は、β線、γ線、X線が1、中性子線はエネルギーにより5〜20、α線他重粒子は20である。被ばくの影響の度合いは、放射線を浴びた生物が吸収した線量だけではなく、その放射線の種類によって異なっている。たとえば、同じ1グレイの吸収線量でもアルファ線による場合とガンマ線による場合とでは、アルファ線のほうがはるかに大きな障害を引き起こす。このように被ばくの影響をあらゆる種類の放射線に対して共通の尺度で評価するために使用する量を等価線量といい、単位にはシーベルト(Sv)が用いられる。旧単位としてはレム(rem)が用いられていた(1Sv=100rem)。

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二次宇宙線

宇宙から飛来した高速の粒子(ほとんどが陽子)によって大気中で二次的に発生する粒子群。このうち被ばくの観点から重要な粒子は、航空機高度では中性子、地表付近ではμ粒子である。中性子は電荷を持たないため、一般に陽子など他の放射線と比較して物質中で長い距離を移動することができる。μ粒子については、電荷を持つが、極めて高いエネルギーのものが含まれており、それらは地下数kmにまで達する場合もある。

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フルエンス

粒子のフルエンスΦは、断面積がdaであるような球を通過する粒子の数をdNとしたとき Φ=dN/da で定義される。フルエンスのSI単位はm-2であるが、実際にはcm-2の方がよく用いられる。定義に単なる面ではなく球を導入しているのは、面積の向きを指定する必要性をはぶき、単一方向からの粒子にも任意の方向からの粒子にも同じ定義を適用するためである。フルエンスΦの単位時間当たりの増加分(=dΦ/dt )をフルエンス率φ(記号がフルエンスと異なることに注意)といい、SI単位はm-2・s-1である。フルエンス率は、中性子物理や原子炉物理などでは粒子(線)束(フラックス:flux)と呼ばれることが多い。

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Heliocentric potential (ヘリオセントリックポテンシャル)

太陽活動の強さを表す指標の1つ。太陽磁気圏(heliosphere)の磁場の強さを意味するパラメータで、地上の中性子モニタのデータから導出される。O'Brien (1971) によって提唱された。CARIコードで用いられており、その月別平均値は米国航空連邦局(FAA)のウェブサイトから提供されている。通常400〜1000MV (メガボルト)の範囲にあり、約11年の周期で変動する。

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放射線荷重係数

放射線の種類やエネルギー(放射線の線質と呼ばれる)による放射線の生物学的効果の違いを補正するための係数。組織・臓器の平均吸収線量にこの係数を掛け、その組織・臓器の等価線量を計算するときに用いる。放射線荷重係数は、1990年のICRP勧告で、それまで用いられてきた線質係数に替わる補正係数として新たに導入された。放射線荷重係数の値は、低線量における確率的影響の誘発に関する生物効果比の値を代表するようにICRPによって選ばれたが、根拠となるデータについては十分とはいえない。

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放射線審議会

放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的として文部科学省に設置されている諮問機関。関係行政機関の長は、放射線障害の防止に関する技術的基準を定めるときは、同審議会に諮問しなければならないとされている。同審議会により、平成18年に航空機乗務員の宇宙線被ばく管理に関するガイドラインが策定された。

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Modulation potential (モヂュレーションポテンシャル)

太陽活動の強さを表す指標の1つ。宇宙線の変調(modulation)を意味するパラメータで、太陽磁場が変化すると一定の時間遅れで宇宙線強度が変化する関係を利用して、太陽黒点数(太陽磁場)の過去数ヶ月の観測データから推定される。Nymmikら(1996)によって提唱された。CREME96コード等で用いられている。Heliocentric Potentialとは数10MVの違いがある。

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リスク

放射線防護の分野では放射線による健康障害のリスクのことをさす。放射線による健康障害のリスクは潜在的原因が人体内の高次のネットワークシステムを通じて発現する。したがって、広義の放射線リスクは放射線の被ばくから障害の発現に至る生物機構の全過程を含むものである。一方、狭義の定義では、がんや遺伝障害の発生確率を意味することが多い。

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