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航路線量の計算方法

航路線量(離陸から着陸までの航空機に搭乗している間に宇宙放射線によって受ける線量)は、飛行条件に関する以下のような情報に基づいて計算されています。

これらの正確な情報を入手できれば、公開されている計算コード(後述)を用いて、航路線量を信頼できる精度で求めることができます。ただし、ごく稀な巨大太陽フレアの発生時においては、太陽活動の変化を考慮した計算が別途必要になる可能性があります。

2005年現在、航路線量の計算に広く利用されているコードとして、米国のCARI、ドイツのEPCARD、カナダのPC-AIRE等があります。また、これら既存のコードの特長を継承しつつ、新たなコードの開発も進められています。以下に、代表的な3コードの概要を説明します。

[1] CARI

米国連邦航空局(Federal Aviation Administration: FAA)のFriedbergらが、宇宙線の大気中輸送を計算するLUINコードをベースに開発したものです。FAAでは太陽活動の指標であるヘリオセントリックポテンシャルのデータを1958年から継続して収集していますが、この月別平均データを利用して、50年近い期間の月単位での航路線量が計算できるようになっています。CARIでは、各月の地球磁場の条件において、輸送方程式を解析的に解いて大気中の線量率分布を求め、これを飛行条件(航路及び高度等)に照らして搭乗時に受ける実効線量を計算しています。現在利用されているCARI-6では、米国放射線審議会(NCRP)の提言に従って陽子の放射線荷重係数として、ICRPの1990年勧告に示されている5ではなく、2を採用しています。 CARI-6は、FAAのCivil Aerospace Medical Institute(CAMI)のホームページ上からコードをダウンロードしてMS-DOS上で利用することができるようになっています。

[2] EPCARD (European Program package for the Calculation of Aviation Route Doses)

ドイツのGSF(国立環境健康研究所)のグループが、欧州で開発されたFLUKAと呼ばれるモンテカルロコードをベースに開発したものです。高度5〜25kmの上空を巡航飛行する航空機の搭乗者を対象として、周辺線量当量と実効線量を計算できるようになっています。EPCARDでは、NASAの宇宙線モデルにより地球周辺の磁場・放射線環境を記述し、FLUKAコードにより大気中に侵入した宇宙線の輸送を詳細な素過程からモンテカルロ計算して線量率を求めています。当該コードは、GSFのホームページ上でオンライン利用できるようになっています。

[3] PCAIRE (Predictive Code for AIrcrew Radiation Exposure)

カナダのRoyal Military College(RMC)のLewisらにより、実測に基づく経験式を導入して開発された航路線量の計算プログラムです。航路線量を主要な物理量や計測量をパラメータとする経験式(フィッティング)で与えているので、実測である程度裏付けられた線量値が簡便な計算で得られるという特長があります。計算結果の検証はRMCの組織等価型比例計数管(TEPC)で行っており、他のグループによるデータと比較して±20%以内の違いに収まるとされています。当該プログラムは、現在PCAIRE Inc.という企業が運用するオンラインシステムとして、同社のホームページから有償で提供されています。

これらのコードで得られた結果はどの程度異なるか、という点については、欧州を中心としたグループにより詳細な比較検討が行われてきました。その結果によれば、航路線量(実効線量)値の計算手法の違いに伴うばらつき(1σ)は15%程度とされています。測定値との比較においては、航路によっては非常によい一致が見られているものの、全体としての不確かさ(2σに相当)は25%程度になると評価されています。なお、後者の不確かさの値は飛行条件が確定した事後の計算に対するものであり、当然ながら、飛行前に計算された予測値の不確かさはもっと大きくなります(〜50%)。

[4] JISCARD (Japanese Internet System for the Calculation of Aviation Route Doses)

量子科学技術研究開発機構で開発されたプログラムの総称で、世界の約1,000の空港からユーザが自由に発着空港を指定して設定される航路(大円ルート)について計算できるプログラム「JISCARD Web版」をウェブ上で提供しています。JISCARDでは、最近国内で開発された大気中の宇宙線強度を精緻かつ迅速に計算できる最新のモデル(PARMA)を採用し、さらに国際放射線防護委員会(ICRP)が2007年に勧告した新しい放射線荷重係数値をいち早く取り入れた線量計算を行っています。なお、JISCARDの計算結果は、新しいモデルと新しい放射線荷重係数値を採用した結果、従来のプログラムに比べて小さくなります。例えば、CARI-6と比べると、実効線量は20〜50%、平均では30%ほど小さな値になっています。

(参考文献)
3-1) European Radiation Dosimetry Group: "Cosmic radiation exposure of aircraft crew: compilation of measured and calculated data", A report of EURADOS Working Group 5. European Commission: Luxembourg, 2004.

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