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航空機内被ばくをとりまく社会動向

国際放射線防護委員会(ICRP)は、1990年勧告(Publ.60)において、自然放射線源による被ばくのうち「職業被ばく」の一部として考慮すべきケースの1つとして、ジェット機の運航に伴う被ばくを挙げています。その後、作業者の放射線防護に対する一般原則についてまとめたPublication 75(1997)、そして新しい2007年勧告(Publ.103)においても、ジェット機乗務員の被ばくを職業被ばくとして扱うべきであるとの見解が示されています。現在大詰めの検討が行われている新しい勧告(案)でも、航空機乗務員の宇宙放射線による被ばくを職業被ばくとして取り扱うべきであるという見解が引き続き示される見込みです。

既に、欧州では、航空機乗務員の宇宙放射線による被ばくを規制の対象とする方針が欧州連合(EU)の理事会指令として出され(EU Council, 1996)、以下のような事項から成る国内法の整備が求められてきました。

これを受けて、ほとんどのEU加盟国では、航空機乗務員の被ばく管理を法令や国が定める指針等に基づいて行っています。一方、米国、カナダ等では、法的な規制は行われていませんが、独自のガイドラインを設けて対応しています。これらのうち、約半数の国では、宇宙放射線による被ばくのレベルに基づいた就労制限が行われています。

我が国では、現在、宇宙放射線等の自然放射線による被ばくは法的規制の対象外となっています。ただし、過去に国の審議会(放射線審議会)において、乗務員等の被ばくの取り扱いに係る意見具申(平成10年6月「ICRP1990年勧告(Pub.60)の国内制度等への取入れについて」)が行われており、「乗務員の被ばくが一定の線量レベルを超えることがある場合には、適切な管理を行うことが必要である」、「航空機内の線量レベルに関しては、測定方法、中性子線等に起因する線量評価等についてより詳細な調査・検討を行う必要がある」等の見解が示されました。

その後大きな動きはありませんでしたが、乗務員の団体から再度の要請を受ける形で、2004年6月、文部科学省科学技術・学術政策局放射線安全規制検討会の下に「航空機乗務員等の宇宙線被ばくに関する検討ワーキンググループ」(事務局:原子力安全課放射線規制室)が設置され、航空機乗務員の宇宙放射線被ばくの取り扱い等に関する検討が多くの有識者の意見を聴きながら行われました。そして、2年近くに及ぶ審議を経て、年間5mSvを管理目標値として航空会社に自主的な被ばく管理を求めること等を明記したガイドラインが放射線審議会によって策定され、2006年5月、文部科学省・国土交通省・厚生労働省の担当局は合同で、国内の航空会社に対してガイドラインに沿った措置を講じるよう通達を行いました。

(参考文献)

5-1) International Commission on Radiological Protection (ICRP): "Recommendation of the International Commission on Radiological Protection", ICRP Publ.60, Annals of ICRP 21. Pergamon Press: Oxford. 1991.

5-2) European Union (EU): Council Directive 96/29/EURATOM of 13 May 1996 laying down the basic safety standards for protection of the health of workers and the general public against the dangers arising from ionizing radiation. Off J Eur Commun L159, 1996.

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