JISCARDの関連情報ページで画像表示している宇宙線強度分布は、太陽表面の観測黒点数から太陽活動の状態を予測する経験式、地球磁場が持つ宇宙線をはじく力の推定分布、そして大気中における宇宙線の輸送を記述するモデルを統合したプログラムにより計算しています。
このうち、宇宙線の大気中輸送を記述するモデルは、日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という)が中心となり開発した新たな放射線輸送計算コードPHITSと最新の核データライブラリJENDL高エネルギーファイルを組み合わせたものをベースとして導出した計算式の集合体です。これに必要な入力パラメータの値を与えることにより、任意の地点における宇宙線のエネルギースペクトルを導出し、実効線量率を計算しています。計算結果はモンテカルロ(乱数発生)型モデルによる詳細なシミュレーション結果と入念に比較され、これとほぼ同じ精度の宇宙線スペクトルをごく短時間の計算処理で取得できることを確認しています。
本サイトでは、この新たなモデルと、別途推定した地磁気(カットオフリジディティ、以下「Rc」と記す。)及び太陽活動の強さ(モデュレイションポテンシャル、以下「Mp」と記す。)のデータを組み合わせて計算を行い、航空機の巡航高度(36,000ft、約11km)における日々の宇宙線強度分布を求め、これを二次元の濃淡マップとして表示しています。Rc値は、スイス・ベルン大学で開発されたMAGNETOCOSMICSコードの最新版(2010年まで有効)によって行い、計算結果をデータベース化して使用しています。なお、現在のRc値のデータは、Google Earth形式の画像ファイルとしてJISCARDのオプションページで既に公開済みです。Mp値については、人工衛星により継続的に観測されている太陽黒点数のデータから推定しました。これらのパラメータ(Rc、Mp)を原子力機構で開発した上記の計算モデルに入力し、航空機の巡航高度(高度11km)における宇宙線強度を緯度・経度それぞれ1度間隔のメッシュで計算して、その分布を「現在の宇宙線強度分布」として世界地図に重ねて表示したものです。この計算、画像の更新は、1日毎(午前0〜2時)に自動で行われるようにしてあります。
なお、今のシステムでは、過去数ヶ月間の黒点数の変動傾向から現在のMp値を推定し、その値から本日の宇宙線強度分布を予測しています。この場合、1日程度でのMp値の変化はごくわずかですので、1日ごとに更新される宇宙線環境にはほとんど違いが見られません。しかし、稀に太陽表面での爆発(フレア)に伴い大量のプラズマ粒子が惑星間空間に放出され、大気圏内の宇宙線強度が数時間〜数日間大きく変動することがあります。そうした短時間の太陽活動の変化にもリアルタイムに対応できるよう、今回開発したシステムの機能を更に改良・検証していきたいと考えています。
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